訓練前にこれだけは知っておきたい
鷹の調教の醍醐味といえば、やはりフリーフライトですね。
鷹を遠くの林に飛ばし呼べばすぐに戻ってくる、鷹を使役する鷹匠の技がひと際輝くシーンの一つです。
このようになるには一体どのような訓練をどれくらいすれば良いのでしょうか。
鷹のフリーフライトは誰でもできるの?
鷹には種類がありますが、初心者にも調教しやすいハリスホークと言う種類ならば、初めての調教でも3年でフリーに出来ると言われています。
仕事をしながらでも鷹の調教はできる?
私の場合は、仕事をしながら学校(通信制で1~2回登校/月)にも通っていましたので少し時間はかかりましたが、生後6か月のハリスホーク♂を1年2か月後にフリーにすることができました。
基本的には毎日訓練を行います。ただ時間がない時は翌日に必ず行うようにして1日以上休まないように、また週に5日~7日は確実に訓練を入れるようにしました。
どんな訓練が必要なの?
訓練の大まかなメニューは以下の6つに分けられるかと思いますが、単にメニューをこなしただけではフリーに出来ると言うものではありません。
- 訓練1『据え』
- 訓練2『室内でジャンプ』
- 訓練3『据え回し』訓練
- 訓練4『渡り(ひも付き)』訓練
- 訓練5『ジャンプアップ』訓練
- 訓練6『ルアー訓練』
毎日の個体の管理が重要
重要なのは日々の個体の管理で、以下の項目については毎日計測をして記録をしていました。
- 体重測定:フライト場所を決めてコントロールしたり、逆にその日の体重によってフライト場所を決めるなど、体重測定は訓練の基本。下げ過ぎても、上げ過ぎてもロストする為ボーダーを知る。
- 餌の量:フライトに備えて餌の量を決め、体重をコントロールする。又訓練の止め時と見誤ると回収困難・ロストの原因に。
- 訓練・給餌の時間:訓練する時間に合わせて与える。給餌と給餌の間が短かければ腹に食物が残る為餌への食いつきが悪くなる。反対に間が空きすぎて空腹時間が長くても消化管に負担となる
- フンの性状:消化具合を見る事ができる。茶色ならまだ食べ物が残っており、緑色なら消化が始まっている。
- 肉当て(ししあて):体重以上に重要なことで、胸骨の竜骨突起部を指でなでて、肉付きを見て餌量を決める。
- 天候・気温・風向:鷹は上昇気流に乗って飛翔する為、風向きは重要。
- 餌への反応:反応する時間が悪ければロストの原因に。
最大の危険はロストする事
ロストとはフライト中にコントロールを失して鷹を見失う事を言います。
一見フリーになった鷹のコントロール不全のようにも思いますが、ひも付きの訓練中にも起こりうる非常に危険な事故になります。
その為ロストは絶対にあってはなりません。
とは言え、技術が未熟な場合には不覚にも起こってしまう事でもあり、私自身、フリーにする前にロストをさせてしまった事がありました。
事故は何故起きたのか
鷹の脚には足革(アンクレット)が装着されており、アンクレットの穴に稽留用ジェス(ロープ又はスリットのある革製のもの)或いはフライト用ジェス(革製のスリットのない物)を通して行動を制御します。
私が事故を起こしてしまったのは、まだフリーに出来なかった頃に、ベランダの柵に稽留させている時でした。
ベランダの柵にはザイル(登山用ロープでリーシュの材料)をある程度の長さで縛り付け、その先端に連結金具の小さいフック(非ロック式)をつけておいて、稽留時には、リーシュについているスイベル(連結金具)にかけていつでも使えるようにしていました。
ベランダでの稽留中には常に目が届くように気を付けていたのですが、樹のゆるみから20分ほど目を離して部屋の掃除をしていた時に、いなくなっていた事に気が付いたのです。
ベランダに残っていたのは、フック(非ロック式)のついたザイルでしたので、羽ばたいた時の力でフックからスイベルが抜け、そのまま飛び立ってしまったのでした。
この事故の大きな問題は2つ
この事故では大きな問題が2つありました。
1つは、使用していた金具が不適切だった事、そしてもう一つは、外に係留していたにも関わらず、目を離してしまった事です。
稽留用ジェスやリーシュが付いたままいなくなる場合、紐が木の枝や建物などの柵等に引っかかり極めて危険な状態になります。
万一逆さづりになると数時間ともたないと言われていますし、逆さづりにならなくても、紐が何かに絡まれば身動きが取れない、あるいは引きずられるなどその危険は計り知れません。
稽留をする時、またロープのガイドを使用してフライト訓練をする際に使用する金具は、スイベルかロック式フックを使うと安全の確保ができます。
この事故では、私が目を離した隙に居なくなっている事に気が付きました。
目の前で飛び立った場合、飛んで行った方向を探す事が出来るのですが、それが分からなかった為、当たりをつけて探すしかありませんでした。
この事故では、師匠の助言を得られ探す事が出来、身体の損傷なく無事に確保が出来ましたが、様ざまな方に不安を与えた事は間違いありません。
この事故の詳細についてはまた改めて記事にしますので、どうか、ご参考いただければ幸いです。
訓練中の大きな壁
恥ずかしながら私は鷹を購入した時、紐をつけて飛ばす練習さえすれば、すぐにでも、あるいはそのうちに飛ばせる事ができると思っていました。
2022年12月2日に購入し、1週間経過してから毎日の様に紐をつけて、休みの日は勿論、仕事に行く前、行った後必ず鷹を飛ばしに公園や河川敷へ行くのですが、思うようには飛んでくれませんでした。
呼んでも来ない、飛距離が伸びなかったのです。
呼んでも来ない
訓練で、呼んでも、餌を見せても、呼び戻しの距離を短くしても全く来てくれないという時期がありました。
根本的な問題は、餌に対する反応が悪いという事にありました。
餌への反応を良くする訓練に尽きる
最初に知っておきたいことは、訓練で最も大事なのは餌への反応を良くするということです。
鷹匠が鷹を呼ぶと、鷹はすぐさま反応し鷹匠のグローブの上にとまります(呼び戻し)。
もちろん、これは毎日訓練をしているからなのですが、これは単に、呼び名に反応をする訓練をしているのではなく、鷹匠がグローブに握っている餌に反応するように訓練を重ねているからです。
訓練の詳しい方法は改めてご紹介しますが、グローブに餌を置き(或いは握り)、呼んでから30秒以内に飛んでこないのであれば、その餌は一旦下げて仕切り直すか、その日はもはやフライト訓練は中止(あるいは別メニュー)にしなければなりません。
呼んでも来ないまま待ってしまうと、鷹のタイミングで餌に来させる事を許すことになり、将来ロストをさせる恐れが生じるからです。
つまり、敢えて訓練を止める事で、鷹に「飛ばなければ餌はもらえないんだ」という事を教育していきます。
ロストをさせない為に、フライトの止め時を見極めるのも一つの技術と言えます。
では、何故鷹は30秒以内に来ない時があるのでしょうか。
餌への反応が悪い時とは
鷹が来ない大きな理由としては、⑴空腹ではない ⑵餌が魅力的でない ⑶グローブが苦手 という問題があげられます。
以下は簡単な説明になります。
空腹ではない
一言で言えるこの状態ですが、観察ポイントは ①体重コントロール、②肉色当て(ししあて)、③フンの性状 です。
これは初心者でも知っておくべき事と言えます。
体重コントロールとは
鷹のフライト訓練では体重コントロールは欠かせません。
鷹の大きさは雌・雄で異なりますが、それぞれ平均体重があります。
このような平均体重は参考値にはなりますが、実際に使役しようとする個体にそのまま当てはめる事はできません。
それは、訓練メニューにより体重の管理を変える必要があるからです。
家の近くの見慣れた環境で飛ばすのであれば、通常体重でも問題ありませんが、初めて行く場所では体重を下げる必要があります。
体重コントロールの難しさ~どれ位下げれば良いの?~
また、体重の数値よりも重要と言われているのが『肉色当て(ししあて)』と言う作業です。
肉色当て(ししあて)
図:左から痩せている(ししが低い)、中間、太っている(ししが高い)。
これは鷹の習性によるものです。
鷹はお腹がいっぱいになると注意は外に向かい周囲への警戒を強めます。
この様な場合、危険を冒してまで飛ぶことをせず、呼んだところで戻ってこなくなるのです。
その為、常にある程度の空腹状態を維持して、必ず戻ってくるように管理しなければなりません。
フンの性状
フンの色で前日食べた物の消化具合、お腹の空き具合を見ます。
鷹の給餌は1回/日です。フライトをする場合には24時間は感覚をあけておくと、前日の食物が消化されているので餌への食いつきが良くなりますが、フンの状態でそれを観察する事ができます。
- フンが茶色い場合:消化が始まっておらず、お腹が空腹とは言えない状態です。フライト訓練では餌への食いつきが悪くなります。
- フンが緑色の場合:消化しきれていて、お腹が空いている状態と言え、
- 白いフンの場合:尿酸で、フライトに備え体を絞っている(詰め)時に見られます。
訓練をしっかりと入れていくためにも、所有している個体の体重や肉色、フンの状態を把握して、その日の餌の量、訓練メニュー、フライト距離や回数を決める事になります。
餌が魅力的でない
餌には、ひよこやウズラ、マウスや鳩などがあり、一般的なのはウズラと言われています。
私は当初はひよこのみを与えていましたが、現在はウズラをメインにひよこで微調整しながら与えています。
ひよこ
ひよこだけでは栄養価が低い為、専用サプリメントをまぶして与えています。
一口が小指の第一関節位の大きさになるようにハサミで細かく切り、ピンセットで与えるか、餌合子(えごうし・えごし)に入れて与えます。
細かく切らないで、そのままの形で与える方法もあります。この場合、一口ずつかじらせて、鷹にばれないように下げなければなりません。
黄色いひよこと黒いひよこがあり、黒いのは栄養があり人気種のため、手に入らない場合もあります。
ウズラ
ウズラはひよこに比べ栄養は高くなります。そのため1日1羽では多すぎるので2日で1羽と考えますが、訓練の内容や段階で消費量も変わるため、やはり毎日の健康チェックを行ったうえで量を決めるようにします。
マウス・鳩
マウスは脂肪が多く、値段も高めです。鳩は大きすぎるので量の調節を行う方が良いように思います。
訓練にメリハリをつける
フライト訓練の形態はいくつかあります。
人から人へと往復する振替(ふりかえ)、丘から下に降りるダウンヒル、遠くの林などへ飛ばす渡り、ルアーキャッチなどですが、それぞれの飛ばし方にあった給仕方法(餌の一回量など)により訓練にメリハリをつけて鷹がフライトを楽しんでくれるように仕向けます。
フリーフライトへの段階を追った訓練の仕方はこちらの記事をご参照ください。
グローブが苦手
これは訓練の準備段階である『据え』や『据え回し』を怠るとみられると言われています。
先ほど訓練で最も重要なのは、餌への反応を良くする事とお話しましたが、これは飛んだりジャンプするメニューだけを言うのではなく、グローブの上で餌を食べる訓練も含まれます。
グローブが苦手になる理由はいくつかありますが、ここでは据えが入っていない場合を想定します。
基本訓練『据え』『据え回し』の重要性
『据え』とは
鷹をグローブ(こぶし)の上に据える事を言います。
腕は、肘をほぼ直角に曲げ、地面に平行になるようにさせます。
据えは、グローブの上が鷹にとって最も安全である事を教える訓練でもあり、止まり木であるかのように安定して鷹が留まっていられる事が求められます。
鷹♂は700g前後あるので、ソファーのひじ掛けに腕を置いて、数時間一緒に過ごします。
この時鷹が片足立ちや、休めの姿勢をしていれば、グローブの上でもリラックスができている状態です。
また、訓練がない日でも、基本的に餌はグローブの上で食べさせるようにし、ここで餌がもらえるという事を覚えてもらいましょう。
私自身は、給餌や訓練以外でも、暇さえあればソファーにかけて据えています。
↑の写真は、訓練後に水を飲んで、体に跳ねた水分を羽根を広げて乾かしているところです。まだ7か月頃なので、あどけないですね。
『据え回し』とは
『据え』ができるようになると、外の環境に慣れる為『据え回し』訓練を行います。
はじめは夜の『夜据』、それから朝の『朝据』、そして『昼据』です。
オーナーが歩いているときでも据えが決まると、尾羽(12枚)は綺麗に真っすぐと閉じ、鷹は正面を見据えます。
一方、オーナーの歩き方で据えの決まりが悪いと尾羽は開き、バランスを取ろうとしています。
鷹は不安定な状態の為前傾姿勢となり常に辺りを見回して警戒態勢に入ります。
また、グローブの上で鷹がバタつくのは、紐(リーシュ・ジェス)の持ち手にたわみが生じ、飛び立とうとするからです。
据え回しは単なる散歩や、グローブに慣れさせるためだけに行うものではないため、常に餌を携帯して行います。
鷹は、見慣れない場所では警戒心が強くなり飛ばなくなります。
その為見慣れない風景でも餌を食べられるように、据え回しのコースのポイント、ポイントで餌を与えていきます。
また、人(特に子供)や車などの(鷹にとって)危険な物にすれ違う場合には、オーナーは、対象物が見えたらさりげなく背を向けてグローブの上に餌を乗せ、鷹の視界をそらせ、注意が餌に向くように仕向けます。
グローブの餌を食べたらまた姿勢を戻して歩行を続けます。
据えの重要性は、訓練が「据えに始まり据えに終わる」と言われることからも、基本中の基本である事を覚えておき、問題に直面したら訓練を戻ってみるのも良いかもしれません。
鷹とコンパニオンバードの飼育を比較
私は鷹を1羽、ハルクインコンゴウインコを1羽所有し、手乗り崩れのコザクラインコの成鳥を1羽お預かりし、それぞれフライトの為の調教を行っています。
鷹は生後6か月のハリスホークを、コンゴウインコは1歳直前になる子を購入しました。
コザクラインコは、知り合いから再調教の為にお預かりしてたものです。
実際に調教を入れてみると、猛禽類の鷹、コンパニオンバードの大型鳥のコンゴウインコ、ラブバードの小型鳥であるコザクラインコでは、鷹が一番調教しやすいように感じました。
ですがこれは性質というよりは、購入した時期によるものなのかもしれません。
と言うのは、雛の時期に適切なしつけや調教が入っていたかどうかに大きな違いがあったからです。
鳥の性質・特徴
鳥本来の性質はそれぞれ異なり、特徴をまとめると以下のように言えるかと思います。
- 鷹(ハリスホーク):鷹の中でも唯一群れで狩りをするため、オーナーを仲間と認識することで、一緒に狩りをすることが可能になります。寿命は25年~30年とも。
- コンパニオンバード:オンリーワン体質で甘えん坊、飼い主さん大好きっこゆえに構って欲しいアピールがすごいが、調教次第でフライトを楽しむ事も出来ます。ただ、寿命は大型鳥が30年以上、コンゴウインコは50年以上と長いので、いずれ飼い主が変わる事を想定して最も調教をきちんと入れるべき存在です。
- ラブバード:小型のインコ類で、一羽で飼ってベタベタに飼い主に懐かせた方が、鳥にとっても幸せな種類です。
私が鷹を購入したのは、ショップで万全の体制で飼育された6か月の雄でした。
羽根の状態は完璧で色艶は素晴らしいものです。この事からも大切に育てられていた事がわかります。
また「据え(調教の一つでいわゆる手乗り状態)」と呼ばれる訓練もできていて、私にもすぐに懐いてくれましたので問題行動などは一切ありませんでした。まさに特徴と一致しています。
ところがコンゴウインコは1歳前の個体を迎えたことで、その特徴(甘えん坊)を大きく逸脱したように思います。
特に劣悪な環境で飼育されれていた過去がある為その影響は大きく表れ、人への警戒心が強く、手乗りで移動できるようになった今でさえ、身体をなでさせてはくれません。
小桜インコに至っては論外とも言えます。いわゆる手乗り崩れで、もともとは手乗りでいたのに購入後から飼い主に構ってもらう事がなかった為、今は問題行動ばかり起こしているからです。
コザクラインコはこの後、手乗りに出来たのですが、実は再調教が最も入りやすいのはこのコザクラのように飼育放棄された子でした。
再調教やリハビリについてはこちらの記事をご参照ください。
性質よりも購入時期と調教の入り具合
鳥類に限らず動物は生後6か月の頃の個体を迎えると良く懐きます。
同時に、ここでしつけや調教を始めなければ、自己中心的で野性味の強い個体となり、集合住宅で飼育したり、継続する事が困難になっていきます。
特に近年人気のコンパニオンバードで中型以上のオウムやインコの問題行動は、1年以内に手放され、次の引き取り手も見つからないと言う、鳥に悲しい人生を背負わせる事にもなります。
どのような鳥でも購入するときには、必ず飼育環境、調教の入れ具合、しつけはどれほどしているのか、病気や奇形はないかを確認をしておきましょう。
また、お迎え後には、しつけ、調教を維持し、社会性を身に着けた鳥に仕立て、鳥を使役する事は勿論、鳥に尽くす事で信頼関係を得られるよう努力を継続していきます。
そうすればきっと、鳥にとって、人間にとって素晴らしい人生になると思います。
最後までお付き合い下さりありがとうございました。こちらの記事も何かの参考になれば幸いです。
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