鷹(ハリスホーク)のフリーフライト
鷹の中でも唯一群れをなして狩りを行うハリスホークは、人を仲間と認識できるので、初めての方でも3年もあればフリーフライトを楽しむ事ができると言われています。
勿論、その為には日々の練習が必要になりますが、重要なのは『呼べばすぐに戻ってくる』、つまり『餌への反応を良くする』ような練習を入れる事なのです。

桜が咲き始めた頃の訓練
主な練習メニューの内容とポイント
フライトの練習には各段階があり、主な内容は以下の6つに分けられますが、一つ一つこなしてから次の段階へと進むようにします。
- 1『据え』
- 2『室内でジャンプ』
- 3『据え回し』
- 4『渡り(ひも付き)』
- 5『ジャンプアップ』
- 6『ルアー』
1~3が基礎メニューと言えるもので、使役者との信頼関係を構築する上でもとても重要な項目です。
一方4~6はフリーフライトを意識した本格的なフライト練習であり、餌への反応を良くすることが最大のポイントになります。
餌への反応を良くするには
フライト練習は、フリーフライトにする為だけではなく、フリーになった後もそれを維持する為に行います。
その為フライトの最終目標は、常に『餌を見せればすぐに戻る事ができる』と言うものであり、以下の点を総合して日々の練習を行います。
餌に対する反応を高める為に必要な事
- 体重測定と管理
- 肉色当て(ししあて)
- フライト方法
- フライト場所の選定
餌への反応が悪い時とは
フライトでは名前を呼んでも、餌を見せても、グローブに飛んで来てくれない事があります。
鷹が餌に対して反応が悪い時に考えられるのは、以下の3点です。
- 空腹ではない
- 周囲に警戒しているとき
- 練習方法に問題がある時

なぜ呼んでも来ないのか本人に聞いて見ますが…
体調管理が整っていない時
上記の問題1・2について
鷹のフライトでは、鷹が餌を食べたいという欲求を利用して行うものであるため、お腹が満たされた時、何等かに警戒をしている時には餌を食べようとはしなくなり、呼んでも餌を見せても飛んで来なくなります。
鷹にとって最も無防備な姿勢は、餌を食べる為に下を向いている時です。
そのため警戒心が働いている時は、危険を冒してまで餌を食べようとはせず、呼んでも来ないのです。
この様な警戒心が薄れるのは、餌を食べたいと言う欲求が勝った時、つまり空腹な状態の時なのです。
鷹自身の反応以外でお腹の空き具合を推測する方法には、体重測定や肉色当て(ししあて)、フンの性状の観察があります。
ですが、体調管理を行う事で空腹状態を作ったとしても思うように飛ばない事があります。
これが、3.練習方法に問題がある時 と考えられます。つまり使役者に問題がある場合です。
練習方法に問題がある時
上記の問題3について
練習方法に問題がある場合の結果として現れるのは、鷹が自分のタイミングで餌を食べる(飛んで来る)と言う事です。
この場合、練習時の使役者の行動に問題があると考えられます。
- 鷹が飛んで来るまで何度も名前を呼ぶ。
- 鷹が飛んで来るまで餌を見せている。
- 鷹が飛べる距離まで使役者が寄っていく。
- 呼んでもいないのに飛んで来た場合に餌を与える。
- その日の練習で成果がなくても餌を与える。
- フライト場所によって体重コントロールをしていない。
こうした事をしていると、鷹は自分のタイミングで餌を食べるようになり、フリーにしたときに回収困難、ロストへとつながるので、早急に改善を図る必要があります。
毎日の練習で意識する事
全身の観察を怠らない
毎日、フライト前にすることは、体重測定と肉色当て、フンの性状の観察です。
まずはベース体重を知り、飛ばしたい日に合わせて体重を減量します。
この時絶食などの急激な減量は避け、基本体重から減少率に沿って減量したい体重量を割り出しその日の給餌量を決めます。
一日の体重変動幅(減少率)や、給餌量にはそれぞれ上下限が設けられているので、限界を超えないように注意します(詳細については改めて記事を投稿致します)。
また体重測定に合わせて必ず行うのが、肉色当て(ししあて)です。
肉色当てとは、猛禽類の胸の辺りにある竜骨突起という骨を触って、そこの肉付きがどのくらいなのかを確かめる事です。

親指と人差し指で挟み上から下へなでるように触れる。左から痩せている、右が太っている。
フライトが順調に出来ている個体は、肉色が付きすぎず(図:左から1番目と2番目の中間当たり)、脂肪の少ない筋肉質で餌への反応が良く、距離を飛ぶ事ができます。
反対に肉色が高い(太っている)と脂肪が多く、筋力は少ないので餌への反応は鈍く、遠くへ飛ぶ事はそれほどありません。
※フリーになった時に筋力が付いてくると、体重を落とし過ぎもロストしやすくなるので覚えておきましょう。
更に、その日の食べ具合を推測できるのがフンの性状を観る事です。
前日の餌の消化具合は、フンの色で分かります。
- 黒・茶色いフンの場合:まだ消化し切っていないため、餌への反応が悪くなります。
- 緑色のフンの場合:一方消化管の中に残っていない状態のフンは緑色をしています。この状態は反応が良くなりますが、消化管が空の状態を頻繁に誘発する事は、鷹の身体に負担をかけるので、注意が必要です。
※白は尿です。

茶色いフンは消化が不十分

緑色のフンは消化し切れている
フンの消化は、食後24時間以上経っていれば大抵は緑色になりますので、フライト練習はなるべく同じ時間帯に行うようにします。
この様にフライトコンディションは、体重の数値のみに頼るのではなく、肉色あてやフンの性状を見る事で整える事が大切です。
フライト場所の選定を誤らない
体重変動幅と給餌量のそれぞれの限界を超えないようにその日の餌の量が決まったら、フライト場所を選定します。
フライト場所の分類は、鷹のコントロールが効くかどうか、鷹にとって慣れている場所かどうか、と言う視点からなりますが、いずれも体重設定により分類されます。
しかし、フライトの為の体重は何グラムから何グラムなら必ず飛ぶ、と言うものではなく、この場所で行うならば、フライトできる体重は何グラムから何グラムと考え、実際の飛び方を見て、終了(回収)のタイミングを考える必要がある事に注意しなければなりません。
体重設定と場所の関係
体重の分類は以下に分類されます。
- ミュウウェイト(詰めていない標準体重)
- フライティングウェイト(飛ばせる体重)
- ハンティングウェイト(狩りができる体重)
場所の分類は以下になります。
- ハウス(家・小屋の中)
- ホーム(いつものフライト場所・慣れた場所)
- アウェイ(初めて行く場所・見慣れない場所)に分けられます。
フライティングウェイトならばホームでの練習が向いており、この体重でアウェイにいけば、回収困難やロストの問題が生じます。
体重設定とフライトの関係
フライトが可能かどうかは体重と密接な関係があり以下に分類されます。
- プロブレムゾーン:フライトに問題が生じる体重設定
- グッドゾーン:フライトに適した体重設定
- ホットゾーン:攻撃的になる体重設定
プロブレムゾーンは、体重が高すぎて問題が起こる場合です。ミュウウェイト、つまり詰めていない標準体重はプロブレムゾーンにあるので、この場合には、ロストの可能性があると言う事になります。
グッドゾーンはフライトに適した体重設定、つまりフライティングウェイトで、ホームが適しここに設定できるように管理する事が大切です。
ホットゾーンは、体重が少なすぎる為に攻撃的になる体重設定です。狩りや初見の場所に行く時にはハンティングウェイトに落としますが、体重を落とし過ぎてもロストの危険は生じるので、これはプロブレムゾーンでもあります。
場所と体重とフライトの関係
鷹の行動は場所によっても影響を受けます。
ホーム(いつもの場所)であれば、グッドゾーンの体重設定はフライティングウェイトです。ここでミュウウェイト(体重が重い)の場合にはプロブレムゾーンとなります。
一方アウェイ(初めての場所)ではグッドゾーンは存在せず、体重設定はホットゾーンのハンティングウェイトになります。ここでホームと同じフライティングウェイトで練習を行うとプロブレムゾーンとなり回収困難・ロストの可能性が生じます。
鷹の警戒心と場所
プロブレムゾーンにある鷹は視野が広く、辺りを常に警戒している状態にあります。これはお腹が満たされている為に餌を食べる必要がない、つまりミュウウェイトです。
一方ホットゾーンにある鷹は視野が狭く、餌に対して獰猛な姿勢を示しています。つまりハンティングウェイトです。
鷹の視野が広すぎず(警戒心が高すぎない)、狭すぎない(低すぎない)状態にあるのがグッドゾーンで、これがフライティングウェイトになります。
フライティングウェイト、ハンティングウェイトを使い分け、匠にコントロールできるように使役者は日々意識します。
練習方法に問題はないか
体調管理を行い、練習場所に行ったのにいざ飛ばしてみたら反応が悪い、という状態の時には、まず練習メニューを見直す前に、練習方法について見直しをします。
使役者の6つの問題行動
以下の点が一つでも当てはまれば、練習方法に問題があると言えるかも知れません。
- 鷹が飛んで来るまで何度も名前を呼ぶ。
- 鷹が飛んで来るまで餌を見せている。
- 鷹が飛んで来るように大きな餌を見せる。
- 鷹が飛べる距離まで使役者が寄っていく。
- 呼んでもいないのに飛んで来た場合に餌を与える。
- 練習で成果がなくても餌を与える。
問題行動1~4の場合の対処法
私がそうだったのですが、呼んでも来ないからと名前を繰り返して呼び続ける、餌を見せ続ける、小さな餌から大きな餌に換えて呼ぶ、使役者が近くに寄るなどは、飛ばせる為にしがちな使役者の問題行動です。
まずは、名前を呼ぶ(私は名を呼びますが餌の合図)のは1度にし、呼んでも30秒以内に反応しないなら、餌を下げて(隠して)少し(10分くらい)経ってからもう一度呼び戻しをしみてます。
フライト練習では鷹に付き合う根気良さも大切で、来させたいが為に餌を大きくしてしまうと、鷹が自分で餌を選ぶようになり、大きい餌でないと反応しなくなりますので、大きくする必要はありません。
これで反応をすると割とその後の反応が良くなるので練習を続けても良いですが、メニューを変更する事も考えます。
例えば渡りを止めて、ジャンプアップを中心にする、据え回しを強化すると言った具合です。
※ジャンプアップは、鷹を下に置いて高く上げた腕に乗せる事ですが、筋力アップに効果があります。
問題行動5の場合の対処法
一方呼んでもいないのに、餌をめがけて飛んで来る場合(問題点4)には、餌を与えないようにします。
グローブだけを差し出してとまらせるか、背を向ければ鷹が方向を変えると思いますので、この場合は餌を与えないでやり過ごし、再び呼び戻しをし、呼んでから来た場合にのみ餌を食べられるようにします。
これは意外に重要な点であり、合図をしてからではないと餌はもらえない、という事を教えます。
問題行動6の場合の対処法
成果がなくても餌を与える2つの場合
- 反応が悪い場合:ある程度お腹が満たされている事が多いので、練習を終了(中止)したのであれば、餌が残っても与えず翌日に備えます。
- 練習が出来ない場合:仕事をしていると、どうしてもフライトできない場合があると思いますが、このような場合にはグローブの上で餌を与え、餌はグローブの上で食べるもの、と言う事を一貫して教えていきます。
フライト練習を中止にする際に注意する事
鷹は、空腹な状態ならば基本的には反応が良い筈ですので練習が進み、お腹が満たされるにつれ反応は鈍くなります。
呼んでも30秒以上来ない事が続いたり、高い所でじっとしている時間が長い場合は、ロストの恐れがあるのでその日の練習は中止にして、翌日の練習に備えます。
中止をするのは、飛ばなければ餌はもらえないんだよ、という事を教える為です。
練習の終了や中止は成功したタイミング
ただ、練習を中止にするのはよほどの事でない限りはしない方が良いでしょう。この状態が頻回に続くと反って飛ばなくなるからです。
私は、反応が悪くてもすぐには中止せず、20~30分は待つ覚悟で、フライト練習の時間を確保しています。
また、中止したにも関わらず家で餌を与えれば、飛ばなくてもご飯はもらえると言う事を覚えてしまい、やはり反応が悪くなります。
飛ばなければ餌はもらえない、と言う事を一貫して教えなければなりませんので、そのためにも練習を終了するときは、成功したタイミングにしましょう。
呼んでもないのに飛んで来る場合は要注意
さきほど少し触れましたが、注意したいのは呼んでもないのに来る場合です。
この時の鷹は基本的には空腹な状態にある筈ですが、以下2点で使役者は注意が必要です。
- 呼んでもないのに、来たから餌を与える場合
- 呼んでもないのに来たから、餌を与えない場合
まず1つ目ですが、これは呼んでもないのに、来たから餌をあげてしまう場合です。
これを繰り返すと鷹の心理は、自分のタイミングで餌をもらう事ができると思ってしまい、呼び戻しの練習としては不適切と言えます。
その為、この場合にはやり過ごし餌を与えないで、しばらく経ってから呼び戻しをしてみましょう。
また2つ目は、呼んでもないのに来たから、餌を与えない場合です。
呼んでもないの来た場合には餌を与えてはなりません。ですが、この場合が続いた時の鷹の心理は、グローブに行っても餌をもらえないと考え、呼んでも来なくなってしまうのです。
相反する二つの場合ですが、これら双方の問題は使役者の行動にあります。
鷹が飛んで来る理由はただ一つ、餌をもらいたい時なので、鷹は使役者が餌を見せるタイミングを今か、今かと見計らっています。
なので、呼ぶ前に飛んで来る場合には不用意に餌が見えている可能性があります。
私は、渡りの後に必ずルアーを入れていますが、ルアーでは必ず大きい餌をつけているので、鷹自身とても楽しみにしています。
なので私が背を向け、ルアーの準備をしていると、勝手に近くにやってきてしまいます。この場合はやり過ごし、少し時間を置いてから行うようにしています。
やってはいけないのは、餌を与えないままフライト位置に戻し、間を開ける事なく呼び戻しを繰り返す事です。必ず一定間隔をあけてから呼び戻しをしましょう。
私は今、鷹(天雅君)と共に過ごす時間が本当に幸せでなりませんし、フリーで大空を雄大に飛ぶ天雅の楽しそうな姿は、いつ見ても心に感動を与えてくれます。
こうした日々がいつまでも続くように、毎日短時間でもフライトを入れ、普段の練習は口餌を徹底し、ルアーでは大きい餌をつけご褒美を与えると同時に、必ず回収できるように心がけています。
皆さんも大事なパートナーと楽しみながら日々の練習が進むよう、心から願っています。
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