訓練前に肝に銘じておきたい
鷹に興味を持たれる方なら誰でも憧れるフリーフライト。本当に素敵ですね。
このフリーフライトが可能になるのは、日々の呼び戻しトレーニングがきちんとできているからこそです。
日々のトレーニングを怠れば、ロストというあってはならない事態に遭遇します。
ロストをしてはならない
ロストとは、フライト中に鷹を見失う事で、使役においては決してあってはならない事です。
フリーフライトをするためには、当然ながら各段階のトレーニングがあり、それぞれを確実にこなしてから次のステップへ行かなければなりません。
人によっては、ハリスホークはすぐにでもフリーにできる、ロストをしても帰ってくる、と言いますが、ロストをしたときのリスクはあらゆる問題を引き起こします。
ロープジェスや紐が付いた状態なら、木の枝、あるいは建物の柵に絡まり、逆さ状態にでもなれば数時間と持たずに絶命すると言われています。
また、人間による悪質な連れ去りが起これば戻ってくる可能性はほぼないでしょうし、興味本位から近づこうとする子どもがあれば、子どもを傷つける恐れさえ生じます。
その為、決してロストをしないように細心の注意を払って訓練をして行く必要があるのです。
ロストをすると、帰ってこないと言うよりも、連れ去りや、鷹自身あるいは他者の身が危険にさらされる事が最も心配されます。
トレーニングメニューの意義
トレーニングの基本的な流れ
基本的には『据え→据え回し→ひも付きフライト(渡り・ルアー)→フリーフライト(鷹狩り)』という流れになります。
各段階にはそれぞれ重要なポイントがありますが、共通して言えるのは、すべてはロストをさせない為のトレーニングである、と言う事です。
根底にあるのはロスト回避
据えや据え回しではグローブの上が最も安全である事を教えます。
グローブの上で餌を食べ、水を飲む事が当たり前であり、リラックスできる場所であるからこそ帰ってくるようになります。
紐付きのフライト期間では、飛距離を伸ばす事よりも、餌への反応を良くする事が最重要課題と言えます。
呼んでも餌への反応が悪いとなると、ロストのリスクだけが高まるからです。
※餌への反応が悪いとは、餌への食いつきが悪い、つまり飛ばないと言う意味です。これは呼んでも飛んでこないと言うだけでなく、呼んでも飛んで来るタイミングが遅いという意味も含まれます。
実は紐付きでの訓練時期は、使用する小物類(足革、ジェス、リーシュ、スイベル等)の不具合、不適切な道具の使用によって、鷹にとって身体に及ぶ危険が最も高くなる時期でもあるのです。
その為この時期の訓練で重要なのは、道具の管理を怠らない事、飛距離を出す事ではなく、餌への反応を良くすることに集中すべきである、と言う事であり、これこそがロストへのリスクを最小限にする為の訓練方法なのです。
フリーフライトに出来ても、はじめのうちは使役者も楽しめる為、日々のフライトを行う事が苦ではないでしょう。
ですが、使役者が訓練場所に飽きてしまったり、そもそもフライトへの興味が薄れ、訓練や体重管理、装具整備を怠った状態で気まぐれにフライトを行えば、確実にロストをする事になります。
鷹やハヤブサは、雛の内から育てれば手乗りにはなります。
ですが、ただ手乗りになるのと、グローブに帰ってくるという事は全くの別問題で、訓練をしていない状態で放せば決して戻って来る事はありません(実話)。
その為にも、各段階でロストしないためのトレーニングを徹底的に行い、フリーになっても毎日の訓練を維持していく事が必須条件です。
ロスト回避の為のトレーニングとは
ロストを回避する為の訓練と言っても、その為の専用メニューがあるわけではありません。
ロストをしないための鉄則は、日々のトレーニングで餌への食いつきを良くする事です。
訓練は、ただ飛翔距離を伸ばす為だけに行うものではなく、むしろ、距離よりも呼べば必ず戻ってくる(餌にすぐさま食いつく)ようにする事です。
コンパニオンバードの大型鳥も、可能な限り呼び戻しトレーニングを入れ、どのような状況でも(たとえ遊びの途中でもそれを止めて)呼べば手に乗る、というくらいトレーニングをしておくのが望ましいです。コンパニオンバード~手乗りトレーニングと必要性~
各段階のメニューをこなす際の餌への反応(食いつき)をよく見て、餌の大きさや給餌の仕方、その日の量を決めていきます。
例えば、『据え』では餌は必ずグローブの上で与え、次の段階である据え回しでも、ポイント(地点)やタイミングを踏まえて途中途中で餌を与えながら歩く事に意義があります。
据え回し中に餌を食べないのは、周囲の景色に警戒している事が考えられます。
そのような状況で、万一紐が外れると、呼んでも回収ができずロストにつながる恐れがあります。
据え回しをしているとよくお散歩と勘違いされますが、散歩とは意義が違いますので、そこをしっかり抑えておきましょう。
また、紐付きの訓練では、呼んでも餌への反応が悪く、30秒以内に飛んでこないならばその日の訓練は他のメニューに変える必要があります。
実は飛ばないからと訓練を中止する事は反って飛ばなくなる恐れがあります。
動物の行動トレーニングでは全般に言える事なのですが、トレーニングを終了するのは必ず、メニューを成功したタイミングと言われています。
これは、失敗したタイミングで訓練を中止をすれば自信をつける事ができず訓練の成功が遠のくからです。
又、訓練をちゃんとしてくれないからと中止にすると、鳥は非常に賢いので、自分のタイミングで訓練を終了させようとし、もはやメニューをこなさなくなるからです。
鷹に限らずコンパニオンバードについても同じです。動物は常に、人間が自分より地位が高いか低いかを見ています。人間が妥協をすれば必ずトレーニングは失敗する事を肝に銘じておきましょう。
トレーニングが上手く行かない事が続くのであれば、もはや据えや据え回しから訓練をやり直さなければなりません。
また、ハリスホークがルアー(疑似餌)を使用する訓練の意義は、狩りに向けて空中で獲物をキャッチする為だけにあるのではありません。
むしろ、ルアーを見せれば必ず手元に帰ってくる、という確実な回収手段として使役者が使いこなせるようにするためのトレーニングとも言えます。
その為、ルアー訓練では、空中キャッチは二の次で、使役者が笛を吹いてルアーを地面にポトンと落とせば、多少お腹が一杯でもすぐさま彼らが飛んで来る、と言うところまで仕込みます。
こうしたトレーニングは、彼らが飛んで来るまで待つ、と言う姿勢では一向に進みません。
では、どうしたら素早く反応するのか。この課題を解決する為にはいくつかの要素がある事を知らなければなりません。
トレーニングで最大の問題とは何か
呼んでも飛んでこない
鷹のフライトを進めて行く上で、最も大きな問題となるのは呼んでも飛んでこない(反応が悪い)ということです。
フリーでは、この状態がロストする危険性が最も高くなります。
この問題を解決する為にはいくつかの課題がありますが、私が特に重要と考えているのが以下の5点になります。
- 体重と肉色当ては適切か
- フンの性状と給餌の量・訓練時間は適切か
- 訓練場所と鷹のコンディションは適切か
- 訓練メニューは適切か
- 飛ばす時間帯は適切か
これらは同時に理解し、意識すべきであり、もし、体重だけに焦点を当てて訓練を始めれば早い段階で行き詰まる事になるでしょう。
餌を食べない理由とは
鷹が飛んでこない理由の一つに、餌を食べる必要がないという事があげられます。ですが、これは単に空腹ではない、あるいは体重が多い、という事を意味するものではありません。
鷹が餌を食べないとき、鷹の注意は外界へ向いており周囲を警戒している状態にあります。少々お腹が空いていても、飛んで敵に襲われるリスクが高ければ、鷹は飛んでは来ないのです。
言い換えると、餌への反応が良ければ良いほど、周囲を警戒する余裕がないほどに空腹な状態にあると言えます。
ところが、『体重を減らす』為にしなければならないのは、ただ体重を計って給餌量を減らせばよい、というものではありません。
『肉色当て(ししあて)』をして、その肉付きから、一日に減らせる餌の量や体重量を割り出します。
肉色当てとは
猛禽類の胸の辺りにある竜骨突起という骨を触って、そこの肉付きがどのくらいなのかを確かめる事を言います。
肉色(しし)が高ければ太っている、低ければ痩せている、と言う意味になります。そのため体重管理は数値にのみに依存するのではなく、実際に猛禽類の身体に触れて確かめる事が重要になります。
また、フンの性状を見る事で前日の餌の消化状況がわかりますし、そこからも餌の量や訓練の内容を変える必要が生じます。
10分以上間を開けて呼ぶ
訓練では、何度も名前を呼び続けたり、必要以上の時間をかけて餌を見せ続ける事は避けます。
呼んでも来ない場合には、使役者が一旦休憩をとり、鷹から見えないところに隠れスマホでも見ながら暇をつぶしてみましょう。
しばらくすると、鷹の方もどうしたのかな?と気にするようになり、呼ぶと今度は一回で飛んで来るようになります。
これは、私が師匠から教わった手法です。テキストにはないことを知るためにはやはり人につくのが良いかもしれませんね。
時間帯を変える
訓練1年目では、夜→朝方→昼間へ訓練をするのが良いと言われています。
昼間飛ばなくても、夜間には飛ぶようになる場合、据え回しを含め時間帯を少しづつずらし、慣らしてから日中の訓練へ移行します。
これは、日中の方がより警戒心が外界に向かう為です。そのため、夜間のトレーニングより日中のトレーニングの時の方が空腹である方が良いでしょう。
訓練内容にメリハリはあるか
鷹のフライトトレーニングでは、犬や猫とは違い、ほめる事で調教が進む事はないと言われています。また、おもちゃを与える必要もありません。
同じ大型鳥でもコンパニオンバードでは玩具の役割は重要になります。コンパニオンバード~玩具の重要性~
一方で嫌な事をされると警戒心を丸出しにして威嚇をしてきます。
その為鷹にとってトレーニングが楽しいと思えるような仕込みをしていかなければありません。
その基本が飛べば必ず餌をもらえる、という事につきます。
トレーニングにメリハリをつける方法は、渡りであれば口餌を使用し、ルアーの時には大きな餌を与えるという使い分けです。
ルアーは、鷹にとってはご褒美である為、渡りの後に行う事が大切です。また必ず大きな餌(ヒヨコ1/2羽~1羽等)をつけてあげます。
ルアートレーニングは、多少お腹が一杯でもルアーを振れば必ず戻ってくる、という回収手段としての意義が大きい為、ハリスホークでもトレーニングは入れておくべきでしょう。
いくつもの要素を勘案、総合して使役者が調整する事で、鷹は存分にフライトを楽しむ事ができ、ロストを回避する事もできるのです。
調教のやり直しを検討
私自身、ハリスのトレーニングを開始してから1年半後にして、何とか、ようやくフリーにできましたが、3か月もするとすぐにどこか見えないところに行ってしまうようになりました。
10分もすると戻ってはくるのですが、これではロストの危険が高すぎて、1日のトレーニングを安心してできません。
そこで考えなければならなかったのは、調教の見直しです。
鳥屋期のフライトが上手く行かない
鷹などは、鳥屋(換羽)期に入ると、強い羽根に生え変わるように換羽に集中させるため、厳しい訓練を避けると言われています。
この時期は、餌を与えてこれ以上体重が増えない、という状態にして栄養を摂る事が重要になるからです。
また、この体重をフルウェイトとして、鳥屋が明けるころに体重調整をして、再び厳しい訓練を再開します。
ただ、ハリスホークについては、もとより人間に懐くとも言われており、鳥屋期についても、ほぼ丸(フルウェイト)の状態でもフライトは可能であり、体重を1割以上下げなければコントロールが効かないのであれば、訓練が上手く行っていないかもしれません。
この場合、もう一度トレーニングの入れ方を見直す必要があります。
ただし、鳥屋期の栄養不良は羽根に顕著に現れます。脆弱な羽根はフライト中に何かにぶつかると折れる事もありますので、充分注意しながら鳥屋を過ごすようにしましょう。
鳥屋の過ごし方については、コンパニオンバードを例に記事を投稿していますが、鷹についても触れていますので、ご参照いただければ幸いです。
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