フリーまでの道のり
鷹のハリスホークの場合、遅くとも3年もあればフリーにできると言われています。
私の場合、仕事(フル出勤)と学校(通信教育で1~2回の登校/月)の都合上購入元で行われる訓練を、4~6か月に1回程度しか受けられず、また日々の訓練もままならなかったので時間はかかりましたが、1年4か月でフリーにする事が出来ました。
基本的な訓練メニュー
基本的な訓練メニューには以下の5つがあります。
- 訓練1『据え』
- 訓練2『室内でジャンプ』
- 訓練3『据え回し』
- 訓練4『渡り(ひも付き)』
- 訓練5『ルアー訓練』
ただ、訓練を行う上では上記メニューの他、体重コントロール、肉色当て(ししあて)が必要になり、これらはフライトは勿論、鷹の状態を管理する上で重要な事項となります。
※肉色当てとは:猛禽類の胸の辺りにある竜骨突起という骨を触って、そこの肉付きがどのくらいなのかを確かめる事を言います。
こちらについては後日改めて記事を掲載いたします。
また、上記1~5の具体的な訓練方法については、”鷹匠になるには~5.具体的な訓練メニュー~”でご紹介していますが、個人的にはこの記事中でご紹介する訓練の意義の方がはるかに重要であると思っていますので、順を追って読んで頂けると幸いです。
フリー認定試験
鷹をフリーにするには、やはり認定試験があるのでしょうか?そうなると敷居が高いかな…
実は鷹をフリーにするために、誰もが認定試験を受けるわけではなく、自分でフリーにしても大丈夫と思えばフリーにしても構わないのですよ。
私自身は、所有している鷹をフリーにできるかどうかは、自己判断ではなく、購入元(エキゾチックアニマル~鷹の庵~)の鷹匠に判定をしてもらえるようにお願いし、試験と言う形で見ていただきました。
1度目のテストでは、もう一度フライトを見たいとの事で、不合格になりました。
理由は、フリーにできない事はないけども、ロスト(見失い)をする可能性は高いから、との事でした。
そして2度目(自分の都合上1か月後)のテストで、(これなら何とか)大丈夫でしょう、という事で晴れてフリーにする事ができました。
これまで鷹匠の元で訓練を見ていただき、フライト認定試験も受けた事で、何がいけなかったのかを明白にする事も出来ました。
この記事では、そうした訓練での失敗や、フリーになったからこその気づきなどを振り返りながらご紹介したいと思います。
訓練で大事な事
5つの目標がある
私自身の経験から、訓練ではそのメニューを知るだけではなく、各メニューを段階で分け、その段階での目標を決めていく事が大切ではないかと思いました。
先ほど、フリーフライト認定試験で不合格になったとお話ししましたが、その理由はロストする可能性が高いから、と言うものでした。
このロストをする危険性とは何を言うのか。
ここで、最も重要なのは餌への反応であり、餌を見せてすぐさま飛んでこないのであれば、ロストをする可能性や回収困難になる可能性が高くなります。
その為、各段階における目標は、餌への反応を良くすることであり、以下の5つの目標が見えてきます。
- 目標1:グローブの上で餌を食べる事ができる
- 目標2:ジャンプをしてグローブで餌を食べる事ができる。
- 目標3:据え回しで餌を食べる事ができる
- 目標4:紐(クリアンス)付きフライトで餌への反応が良い
- 目標5:ルアー訓練で餌への反応が良い
各目標の共通項
上記5つの目標で共通しているのは、餌をグローブに置いたらすぐに食べる、見せたらすぐに飛んで来るように訓練を入れなければならない、という事です。
鷹匠の訓練について調べると、据え回しや、紐をつけて飛ぶ練習とか、ルアー訓練、体重管理の重要性といったものをネット上にもよく見かけます。
これらの訓練が各段階に沿って行うものである事は容易に理解できましたので、鷹匠の助言の他、訓練方法の一つとして参考にもなりました。
所が、段階を踏んでも思うような結果が得られない時期がありました。
今振り返ると、ただ、環境に慣れさせるために『据え回し』を行い、飛ぶ距離を伸ばす為に『忍縄(おきなわ)』をつけてフライト訓練をし、狩りの練習の為にルアーを振っていたからだと思います。
では、何がいけなかったのか具体的な目標と一緒に振り返ります。
各目標の意義と訓練の概要
目標1:グローブで餌を食べる事ができる。
目標の意義
単にグローブの上で食べられる事を意味するものではなく、グローブに一口乗せたら、すぐに食べてくれる、という事に意味があります。
鷹が餌を食べない理由は、警戒しているときですので、グローブの上で餌を食べない、あるいは餌を置いてから時間がかかる場合には、使役者との信頼関係はまだ築かれていないかもしれません。
その為信頼関係を築く上でも重要な最初の訓練メニューが『据え』『据え回し』になります。
『据え・据え回し』は最も重要な訓練の一つと言えますが、何故これが重要なのかと言うと、これが基本であり、フライトが上手く行かない理由の多くは、この時期の訓練方法に問題があると言われています。
ここでは、鷹が安定した姿勢が保持できる事も重要になります。
『据え』とは、グローブの上に鷹を乗せた状態を言い、鷹にこの上が最も安全な場所であることを教えます。
フライトの基本は、どこまで遠くに飛ばせるかよりも、どんな状況でも必ず呼び戻す事ができる、という事に尽きる為、グローブの事が嫌いになるようでは訓練は進みません。
その為、据えは、単に鷹をグローブの上に乗せておくことだけを言うのではなく、給餌の場として覚えてもらう重要な訓練の一つになります。
給餌の基本
細かく切った物(口餌)をピンセットなどでひと口ずつグローブの上に置いて与えます。
餌を与える際には、「ハイ」「ホツ」などの言葉を一緒にかけて、出来るだけ一口ずつ与えるようにします。
据えの時間は、慣れるまでは数時間と言われていますので、ソファーに肘をかけておくと、長時間でも姿勢を保つ事ができます。
私は今でも訓練から帰った後には、1時間から2時間はソファーに腰を掛けて据え、この時に水分補給をさせています。
お迎えから1週間は、環境に慣らすために据え回しやフライト訓練をする事は避けなければなりません。
その為給餌するくらいしかないので、据え手の数時間はアッと言う間に過ぎて行きました。
幼鳥だったこともあり、仕草の一つひとつがかわいらしくてたまりませんでしたね。
水分補給
水は水桶に入れておくと良いと言われますが、警戒心の強い子は桶から水分補給をしたり水浴びをする事を拒みます。
水分は、餌からも摂取する事ができるのでさほどの心配はないと思いますが、2週間以上経過しても摂っていないようであれば、水を入れたコップを手向け、コップで水が飲めるようにします。
警戒して口をつけないなら、使役者が一口飲んでみせます。するとそのコップからなら水を飲むようになります。
グローブ上で鷹が安定した状態でいられれば次の目標に移ります。
目標2:ジャンプしてグローブで餌を食べる事ができる
目標の意義
重要なのはジャンプの距離ではなく、短い距離でも素早く餌に反応できる、という事です。
鷹にとって最も無防備となる体制は、餌を食べる際に頭を下に向ける姿勢であると言われています。
そのため鷹にとってのジャンプ(の距離)は、餌を食べる為に安全なのかを推し量る距離でもありますので、まずは、室内で練習をします。
訓練2:『室内でグローブまでジャンプ』
パーチからグローブ迄、次はリーシュ(90㎝位)の長さからグローブ迄と、距離を伸ばして行きます。
餌を食べる時には『ハイ』「ホッ」など掛け声をかけます。
餌を握ったグローブを差し出すのは初心者には危険
餌であるヒヨコやウズラを、細かく切らずに握ったグローブを鷹の前に差し出す方法があります。
この場合、鷹が一口かじったら、使役者は鷹にバレない様にグローブの餌を素早く下に引っ込めてエサ入れへ隠さなければなりません。
この時引っ込め方が悪いと鷹にバレ、鋭い爪で、餌や使役者の指をつかんで離さなくなります。
ここで無理に取り上げようとしたり、つかんだ指から離そうとすると、自分の餌を横取りされたと思い更に強い力で握り返してきて非常に危険です。
特に指をつかまれた時には神経障害を起こす恐れがあります。
初心者の場合や、使役に慣れるまでは、勧める事はできない方法です。
室内での往復がスムーズにできるようになったら、外での訓練を開始します。
目標3:『据え回し』で餌を食べることができる
据え回しとは、鷹が外の世界に慣れる為に行うものですが、この時鷹の全体を眺めつつ個体の性質を把握するように努めます。
外の世界に慣れるの意味
ここで、外の世界に慣れさせるとは、自動車や飛行機の音、また人間に慣れさせるという事で間違いではないのですが、これは、触れあったり、騒音の中でも平常に過ごせるようになることを意味するものではありません。
外の世界に慣れるとは、外で餌を食べる事ができるかどうか、と言う事です。
まず、鷹は警戒心が強い為初めての環境では餌を食べません。
これはフライトをするようになると顕著に表れるのですが、そうした事を予防する為に据え回しでしっかり、餌を食べられるようにします。
据え回しは“この期間行う”と言うものではなく、信頼関係を築く上でも重要な日々のトレーニングメニューになります。
具体的には、ポイントを決めてその地点に来たら口餌を与える、人やトラック、騒音がある時に餌を与えるようにします。
※口餌とは、小指の先端程度に細かく切って与える餌の事
写真↓:良い据え回しの例
私の失敗①:据え回しで餌を与えない
私が据え回しの重要性を知ったのは、訓練を重ねてから半年以上経過した時でした。
ある程度忍縄(おきなわ)を付けた状態で距離を飛べるようになったので、安心してショップで行うフライト訓練に向かったのですが、その日、うちの鷹(ハリスホークの天雅君)は何度呼んでも、大きな餌を見せても、ぴょこんとも飛びませんでした。
初めて行く場所でもあったのである程度体重も落としたのですが、全く飛ぶことをせず、他の同い年のハリス達がフリーフライトで訓練をしている中、私と天雅だけがそれを眺めていました。
可能な限り朝晩2回の訓練を重ね、飛距離が伸びる度に喜んでいた日々が走馬灯の様に頭を駆け巡ると、私は、この子をフリーにするなんて到底できないのではないかと、不安やら悲しみやらで涙が止まらず、ずっと木陰で泣いていました。
手に乗せている天雅が、「クー、クー」と時折鳴いたり、私のグローブの上で片足立ちでリラックスしている無邪気な姿を見ていると、不便でならず(当時は真剣です、ハイ)、自分が訓練をしているのでなければ、この子もきっととっくにフリーになっていたはずと思え、一層涙が止まりませんでした。
本当にあの頃は絶望の淵にいましたね(笑)。
その時に師匠からアドバイス頂いたのが、据え回しでは、ポイントを決めて餌を与えると良い、と言う事でした。
実は据え回しの際にはいつもフライト訓練用に餌を持ち歩いていたのですが、歩きながら餌を与えるという事をしていませんでした。
確かに鷹にとって訓練は、餌を食べる為に行うもの以外の何物でもありませんが、これは、どのような状況でも使役者がいれば安心して食べられる、という信頼関係を表しているものでもあります。
そしてその第一段階が据え・据え回しなのです。
結局私は本来の『据え回し』からやり直しをする事にし、同時に新な本を購入しました。
はじめのうちは、歩みを止めても食べてはくれませんでしたが、徐々に慣れてくるとポイントやそれ以外でも餌を食べるようになりました。
※据え回しには夜、朝、昼と段階がありますが、通常はショップで日中の明るさに慣れていると思いますので、ここでは詳細については割愛します。
目標4:ひも付きでフライトの反応が良い
室内でジャンプをして餌を食べる事ができるようになったら、野外に出て、ロスト防止の為に紐(クリアンス)付きでのフライト訓練を行います。
野外では、使役者が体重コントロールを行い、飛ばせる状態に持って行く事が重要になります。
目標の意義
いよいよフライト訓練らしいメニューになりますが、ここでもまずは短い距離から呼んで、グローブまで飛んで餌を食べるようにします。
重要なのは、飛距離を伸ばす事ではなく、餌を見せて呼んだときにどれだけ早く反応する事ができるか、と言う事になります。
餌への反応が悪い状態、つまり体重コントロールや訓練が未熟な状態で距離を伸ばせば、紐が長くなる分、思わぬ方向へ飛んでしまい、不測の事態を招く事になります。
注意が必要なのは、紐が付いていると言う事は必ずしも鷹の安全を確保するものではなく、紐付き訓練だからこそ見られる事故がある、と言う事です。
ひも付きでの危険
紐付きの訓練中に起こる事故は、予期せず鷹が飛び立ってしまい、高い場所に上がってしまう事で起こります。
- 突然の物音や人ににびっくりして高い木の枝に上がってしまう。
- 強風にあおられて木や建物の柵などに紐が引っ掛かってしまう。
- ロープジェスや、紐(忍縄)が木や建物に絡まり逆さづりになる。
この内、最も厄介なのが3つ目の宙づり状態になる事です。
高い場所でも、紐がどこかに引っかかりさえしなければ時間はかかっても呼び戻しにより下す事はできます。
ですが、ロープジェスや紐が、木の枝あるいは建物の柵などにからまり、鷹が宙づりになってしまうと、早ければ数十分で死に至ると言われています。
その為、ひも付きでのフライト訓練では、周囲に高い物がない広い場所を選ぶようにしなければなりません。
私の失敗②:フリー目前の事故
そろそろフリーに出来そうだと思っていた2024年1月中旬、ある事故が起こりました。
忍縄をつけてフライトの準備をしていた際に、強風にあおられた天雅が突然飛び立ってしまい、私は忍縄を操作する事ができず高い鉄塔に天雅を上げてしまったのです
この時鉄塔の棒に忍縄の紐が絡まり、天雅が宙づり状態になってしまいました。
幸いにも体の重さですぐに紐が下がり、何とか自力で体制を整え、足場を見つける事が出来たようで、宙づり状態になったのは数秒程度でした。
下の写真がその時の物です。
まずは師匠に連絡し、どうしたら良いか確認したところ、所有者が分かるかを確認するように言われました。私の場合市の施設であるのが分かりましたからそれを伝えたところ、ならば連絡先があるからそれを探して連絡をするようにと指示を受けました。
すぐに管理局の連絡先が分かりましたので、電話で連絡をし来ていただけるとの返答を得る事が出来ました。
下の写真は待っている間に師匠に状態を知らせる為、指示を受けて撮影したものです。
職員の方が到着され、一緒に建物(柵)内に入り救出する事ができました。
実際に中に入ってわかったことですが、この時彼が姿勢を保持していたのは、つかめるような棒も何もないフラットな鉄板の上でした。
20分近く、風に飛ばされないように必死にここで立っていたのかと思うと、申し訳ない気持ちで一杯になりました。
事故の原因
この事故の原因は私が紐を長くしていた事です。
フリーにする事を見据えていた訓練でしたの、高い所から遠くへ飛んでこれるようになった事が嬉しく、この頃は、この鉄塔の柵に乗せて呼び戻し訓練をするのが日課となっていました。
訓練が楽しくて仕方なかった私は、危険予知を行う事を怠り(意識が希薄)その為に愛鳥を危険にさらしてしまったのです。
公共施設に限らず、建物によっては入る事ができない場所もあるかと思いますし、何よりも自身の未熟さの為に他人(市職員)に迷惑をかけた事は決して忘れてはならないと思いました。
訓練場所の選定には十分気を付けなければなりません。
私が利用している訓練場所は管理された公共施設(公園や河川敷など)なので、訓練を始めた当初から使用許可を頂いていました。また、近隣住民より苦情などがあれば連絡頂けるようにと連絡先の登録も行っています。
目標5:ルアー訓練で反応が良い
目標4の意義
訓練で最も重要なのは、回収手段を持つ事です。
鷹のフライト訓練の基本は、空腹を利用して餌を食べる為にグローブに戻る、という事に尽きます。
ですが、お腹がいっぱいになると高いところにとどまり、呼んでも餌を見せても回収する事が困難になる事があります。
その為、多少お腹が一杯でも呼べば必ず戻ってくると言う回収手段を持たなければならず、それがルアー訓練に他ならないのです。
通常の訓練では口餌をちまちま餌をもらっているので、ルアーにつけられた大きな餌をみると、鷹は喜んで食いつきます。
必ず付けた餌は全て食べさせ、据え上げではルアーをバレないように回収しなければなりません。
これは、据え上げが上手く行かず、鷹の脚から無理にルアーと取り上げようとすると、餌を横取りされたと思い攻撃したり、横取りを繰り返せば鷹は訓練を諦めてしまうからです。
全ての訓練メニューに共通して言えますが、訓練の終了は、必ずうまく行ったタイミングにします。
これは鷹に限らずコンパニオンバードの調教もそうですが、失敗をしたタイミングで中止をすると自信をつける事が出来ず、問題行動に移行していくからです。
調教がうまくいっていない判断
訓練メニューをこなすにはその意義を知ったり、目標設定をすることで格段に効率があがります。また本当に次のステップに行って良いのか、という指標にもなります。
最終的なメニューのゴールとしてはフリーフライトですが、調教がうまく行っているか否かの判断は、換羽期のフライトの状況で見る事ができます。
通常鷹のフライトは体重を落とすことが前提(実際にはこれだけではありません)ですが、換羽期には羽根に栄養を十分に与える為、厳しい訓練は避け、体重を増やす事に重点を置きます。
ですが、ハリスホークは愛情でコントロールできるとも言われており、換羽期に栄養を十分に取りつつもフライトは問題なく可能なはずなのです。
つまり換羽期でも、その個体のフル体重(丸)に近い状態を維持しながら飛翔コントロールができるのであれば、調教はうまく行っているということです。
ところが体重を9割以下にまで減らさなければコントロールが効かないというのであれば、調教がうまくいっているとは言えません。
例えば、訓練時にこのような姿をしていたら、紐を外せばロストすると思って間違いないでしょう。
この画像の状態では、訓練を見直す必要があるのですね?
その通りです。何がいけないのか、もう一度詳しく検証する必要がありますが、残念ながら一から見直した方が良さそうですね。
折角フリーにしても日々の訓練を怠れば元の木阿弥になる事を覚えておき、換羽期でも、しっかり飛べるように訓練を行いましょう。
そして日ごろの訓練は、訓練者自信に必要な訓練なのだと言う事も忘れてはならないのかも知れません。
換羽期の過ごし方、訓練の入れ直し(2年目)については後日投稿しますので、またそちらの記事も併せて参考にしていただければ幸いです。
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