鷹をペットとして飼う
イベントなどで見かける鷹匠を見ると、その技術のすばらしさから鷹をペットとして飼うなど到底不可能と思われるかも知れませんが、鷹もペットとして販売店で購入する事ができます。
とは言っても、ホームセンターなどのペットショップで気軽に購入できるものではなく、一般的には猛禽類専門店での購入になります。
鷹は猛禽類に分類
猛禽類とは、獲物を捕らえるためにその体を進化させた鳥の仲間で、鷹やフクロウなどを言います。
彼らは狩りをするために、よく見える目と、鋭い爪とくちばし、そして強くて丈夫な脚を持つ肉食動物です。
タカの仲間は主に昼に行動し、フクロウの仲間は主に夜に行動します。いずれも、生態系の頂点に位置する生き物です。(参考文献:鳥獣保護センタHP)
初心者にお勧めの鷹は?
鷹類ならハリスホーク(モモアカノスリ)、オオタカ、アカオノスリの雄が良いと言われています。
鷹の和名はノスリと言い、野原を低空で飛行する、つまり野をスレスレに飛行する事からノスリ類と言われています。
ハリスホークは脚(モモ)が赤いのでモモアカ、アカオノスリは尾が赤いからアカオと名付けられたそうです。
初めて飼うなら断然ハリスホーク
まず、初心者がペットして飼うならハリスホークで、それも雌ではなく雄と言われています。
ハリスが良いと言われる理由は、鷹のなかでは唯一群れで狩りをする種類である為、飼い主(オーナー)を仲間と認識するからです。
また、ハリスホークはノイズに強い為、使役する場所を選ばないと言う特徴もあります。
雌よりも雄と言われるのは、雌の方が体が大きく狩りは上手なのですが、その分初心者には扱いにくく、初めて飼うなら通常は雄を勧められます。
※ハリスホークは『空飛ぶ犬』という異名を持つほどに賢く、オーナーに懐くのでペットとして飼うにもふさわしい鷹です。

天雅:生後6か月のあどけない若
カメラを向けると不思議そうにのぞき込む、生後6か月の若。ハリスホークにこんなことされたら、あなたもきっと骨抜きになるでしょう。
部屋の中で追いかけっこして遊んだ事も
実は私は、初めてお迎えしたペットは猫でも犬でも小鳥でもなく鷹さんでした。初期にはフライトの練習が上手く行かなかったのですが、そんな時には部屋の中で追いかけっこして遊んだ事もありました。私が隣の部屋に隠れて名前を呼ぶと、飛んで来きて追いかけてきます。その姿はまさに「空飛ぶ犬」です。

水分は、水桶を置いたり手酌でも飲めるように
ところで、今しがた飼いやすい分類とご紹介しオオタカですが、実際には神経質な猛禽としても知られていて、素人が最初に飼う鷹としてはお勧めできません。
実際に飼った事のある方によれば、その神経質さゆえにかなり大変で、すぐに亡くなるそうです。
かつての鷹匠は野鳥を使役
種類によると思いますが、捕獲をされた鷹は人間からの餌を受け入れず、自死をえらぶ者もあると言います。
猛禽類は1週間くらいは絶食をしても生きられるとも言われていますが、それ以上になると餓死の道に進みます。
かつての鷹匠は野で捕まえた鷹を使役していました。
通常野生の鷹は、生きた動物を捕食して羽根などをむしって肉を食べますが、捕獲された鷹は、人間からの給餌を拒みます。
硬くなに人間の給餌を拒む鷹は、ついには餓死という自死を選ぶのです。
鷹匠はこうした事が起こる前に、最終手段として生餌を使います。
この場合に使用する生餌は、鷹匠が飼っている鳩や小動物の場合もあります。
飢餓状態の鷹は生きている獲物を前に自制する事はできず、生きの良い獲物に飛び掛かります。
そこで鷹匠は寸でのところで、生餌を生肉とすり替え、生肉の味を覚えさせます。
一たび生肉の味を覚えた鷹は、以後、鷹匠の思うがままに指示に従うようになるのです。
鷹匠のこのような技術により、生きた動物を傷つける事もなく、鷹は人間の給餌を受け入れるようになっていくのです。
鷹の気高さと人間の賢さが相まって、最高のパートナーとして互いが信頼しあえる関係になるのですね。
鷹の寿命と健康上の問題
鷹の寿命は25年から30年と言うかなりの長生きです。
勿論病気になれば当然病院へ行く必要がありますが、猛禽類の病気は専門病院でないと診てもらえず、住まいによっては県外まで行かなければならない方もあると思いますので、購入前に、診察が可能な動物病院を見つけておくことをお勧めします。
購入後には、普段から体重管理や、給餌量、フライトの様子や反応を見て異常の早期発見を意識して速やかに病院へ行ける状態にしておきます。
猛禽類の感染症で最もかかりやすいのは、アスペルギルス症(真菌=カビ)だと言われています。
河川敷など枯れたイネ科の草が伸びた場所に頻繁に連れていく場合には、注意が必要です。
鷹(ハリスホーク)の値段は?
猛禽類は、フライトの入り具合によって価格が変わります。
ここではハリスホークについてご紹介します。
雛の場合
28万円前後で購入できます。
雛は、1日3回の給餌が必要であるため、そばにいられる環境であればお迎えも可能かと思いますが、個人的にはあまりお勧めできません。その理由は以下になります。
お勧めできない理由1:鷹に帰巣本能はない
鳥類は雛から育てればよく懐くのは事実ですが、フライトを楽しむためには呼び戻しの練習を日々積まなければなりません。
と言うのは、鷹に帰巣本能はなく、呼び戻しが可能となるのは空腹を利用した練習によるものであり、懐いている事が理由ではないからです。
その為、雛で購入して懐かせる必要はあまりありません。
お勧めできない理由2:初期段階の練習は大変
鷹さんがグローブに乗っていられるのは、『据え』という練習がきちんとされているからです。
『据え』がちゃんとできているからこそ、正しい姿勢を保持でき、グローブ上で給餌が出来るのは勿論、リラックスできる場所にもなり、呼び戻しが可能になるのです。
以上から初めて購入するのであれば、次にご紹介する若で、フライト初期段階の個体がお勧めです。
若(生後6か月頃)
私がお迎えしたのがこの頃で、お店により多少価格は変動しますが34~38万円です。
私の子は手据えやひも付きでのフライトが行われていた子で、既にイベントにも出演していたそうでしたから人慣れがとても良い状態でした。

初対面でひとめぼれ:その日に天雅と命名
お勧め理由1:初対面でもグローブ上で安定保持
初めて手に据えた時も、おとなしくじっとする事が出来ていました。
これはお店の方(鷹匠)がきちんとお世話をされていたからです。
お勧め理由2:性格を選べる
私の場合、集合住宅でのお迎えになった為、お店の方にあまり鳴き声がしない子を、と要望し勧められたのが前出の鷹(天雅くん)です。
確かに、同じ時期の個体でもやたら鳴いてる子もいれば、そうでない子もいました。
現在3歳になりますが、突然の大きな音に対して威嚇の為に鳴いた事はありますが、無駄に騒ぐようなことはありません。
フリーフライトが可能
既にフリーフライトや鷹狩りができるまでになるとお値段は格段に高くなり50~60万円になります。
一見すると、フリーフライトが可能な個体を迎えた方が早く飛ばす事ができるので良いと思うかもしれません。
ですが、フリーにしても呼び戻しの練習は毎日しておかなければすぐに野生化し、ロスト(見失う)する可能性があります。
私の個人的な意見ですが、ショップでフライトの指導を受けながら練習の重要性を頭に叩き込むためにも、最初に購入するのは若をお勧めします。
集合住宅でも飼える?
集合住宅でも鷹は十分飼えます。
私は猛禽類専門店の方に、住まい状況を伝え、可能な限り鳴き声のうるさくない個体が良いと所望し、ハリスホークの6か月の男の子をお迎えしました。
とにかくお行儀の良い子で、現在もその品の良さを保ってくれています。
…何を以て品が良いと言うかは個人の尺度によるかも知れませんが…(笑)、強いて言うなら、一口餌を食べては嘴を綺麗にふきふきしたり…です。
体重コントロールを厳しくすると獰猛に
練習を重ねてわかりましたが、私はあまり体重を厳しく減らすのを避けてフライトをさせている(フルウェイトから1割以上落とさない)ため、本人に多少の余裕があり、無駄に鳴きませんし、嘴もよく磨いているようです。
体重を落とせば当然餌に対して獰猛になる為、鳴き声を上げますし、嘴を磨く暇もなく餌を今か、今かと待っているからです。
購入後の生活
基本のトレーニング
基本的には毎日必要
フリーフライトを目指す迄のメニューと各目標は以下になり、メニュー1~3は信頼関係を築く上でも重要です。
メニュー1『据え』:グローブの腕で長時間過ごせる
グローブを付けた使役者の手の上で数時間過ごします。餌を食べたり、水を飲んだり、くつろいだりさせます。
片足立ちはリラックスしている状態。

据え中:水飲みの際に水しぶきを浴びて
メニュー2『室内でジャンプ』:リーシュの長さを飛ぶ
パーチから使役者のグローブにジャンプして餌を食べるようにします。距離ではなく、餌を見せてからすぐに反応(飛んで来る)かどうかが重要です。
飛んでこない場合、使役者やグローブに警戒している可能性があります。
メニュー3『据え回し』
安定した状態の鷹は使役者が歩行していても背筋は伸び、尾羽が閉じ、真っすぐ見据えています。

安定している時の鷹の状態は尾羽が閉じている
反対に前傾姿勢で尾羽が開いている場合は、グローブの上が不安定なためバランスをとろうとしている状態です。

尾羽を広げるのはバランスをとろうとするため
メニュー4『渡り(ひも付き)』
忍縄という20~30メートルの紐をつけて、呼び戻しができるように練習をします。
紐が付いているのでロストの心配はありませんが、長ければ長いほど、樹や建物の柵に引っかかるリスクがある為、練習場所の選定には十分注意します。

購入後の初めての練習。 まったく反応せず、泣けました…
メニュー5『ジャンプアップ』
足元に鷹を置いて腕を高く上げた状態でジャンプアップさせる練習です。
意外と筋力が付くと言われていますので、雨の日にガード下などで行っていました。
メニュー6『ルアー』
ルアーを用いた練習は、狩りをする為だけでなく、確実な回収方法の手段になり得る一手としても必須です。
ルアーは魚釣りのルアーと同じ意味で、疑似餌を使用し、そこに大きな餌をつけて放り投げてキャッチをさせます。

2024年2歳の天雅:フリー後のルアーキャッチ
鷹の換羽期の過ごし方
種類によって時期は異なりますが、鳥には換羽期と呼ばれる羽根が生え変わる時期があります。
沢山飛んで傷んだ羽根やストレスで傷んだ羽根も、この時期には抜けて綺麗な羽根が生える年に一度のチャンスです。
その為、栄養を最もつけ、ストレス因子を徹底的に除去しなければならない時期でもあります。
鷹の場合、換羽期の6~9月頃は厳しいフライト練習は避け、ストレスを受けないように換羽に集中させて、新たな羽根が強く美しいものが生えるように環境を整えます。
そのため、日々の厳しい練習は避け、栄養を十分に摂れるようにします。
この時期特に重要なのは鷹の体重を増やす(フルウェイト)事です。
と言うのは、換羽が終わってからのフライト練習では、コントロールする体重の割り出しを決めるのが、この時のフルウェイトを基準にするからです。
フルウェイトにすると、呼び戻しが悪くなるので換羽期には完全に練習をする場合があります。ただ、この場合、トヤが明けた最初の練習は、忍縄を使用して呼び戻しになります。
ただ、ハリスホークの場合、フルウェイトに近い状態でも日々の呼び戻しがきちんとできていれば鳥屋と言えども完全に練習を休む必要はないとも言われいています。
換羽期でもフライト練習はした方が良い
私自身、フリーフライト2年目の実感としては、練習を一日でも休むと呼び戻しが悪くなるので、やむを得ない事情がない限りはほぼ毎日飛ばしています。
普段から体重は、フルウェイトから1割以上落とさずとも呼び戻せるように練習を入れいています。
ただ、換羽期は夏に当たるので、朝夕の涼しい時間で短時間行うようにしています。
何故なら鷹は変温性なので、自身で体温を調整する事が出来ず、日向なら身体は暖かくなり、日陰ならずぐに体温が下がるからです。
※体重コントロールの仕方、餌の量の決め方についてはまた改めて記事を書きますので、そちらもよろしくお願いします。
鷹との人生
私は、家の周辺のあらゆるところに出向き、暇さえあれば天雅(ハリスの名前)を手に乗せて出向きました。
道行く人に良く聞かれるのは何故ペットに鷹なのですか?という事です(笑)。
愛玩としてのペットであれば犬や猫、小鳥という選択肢もあったかもしれません。
ですが、鷹匠による害鳥駆除という仕事をテレビで初めて見て以来、一緒に仕事を行うその姿に感動を忘れられず、動物を飼うなら鷹、その一択しかなく、私にとっては、至極自然な事でした。
私は51歳で初めてペットを飼い、52歳でフリーフライトや害鳥駆除の練習を行っていますが、多くの地域の方と親しくなり、生活は一変し、今まさに人生の最高潮を迎えていると断言できます。
皆さんも是非、鷹と共に人生を歩んでみてはいかがでしょうか?
ちなみに、大型インコのハルクインコンゴウインコとも生活をしていますが、率直な感想としては、鷹の方が手はかからないような気がします。
鷹が呼び戻し出来る理由は、ただ一つ餌欲しさであり、日々の練習を怠ればロストするものの、言い換えると日々フライトを十分させていれば自己主張のようなものはなく、穏やかに過ごしています。
一方コンゴウインコなど、大型インコ・オウムに共通して言えるのは、あくまでも自分のしたい事を追求する生き物ゆえに実に自己主張が強いという事です(笑)。
飼い主を大声(絶叫)で呼びつけたり・・・家具を玩具代わりに齧ったり・・・好きな事と嫌いな事は明白です。
ですが、飼い主に愛されようと努力を惜しまず、ただ一人の飼い主に最大の愛情を示す、何とも愛くるしい生き物でもあります。
猛禽類の鷹とフリーフライトを楽しむもよし、コンパニオンバードのインコやオウムと一緒に遊びながら日々を過ごすもよし、どちらも魅力的な子たちだと思います。

ハルクインコンゴウインコのサファイア (1歳)手乗り訓練中
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