羽根の異常はストレスの現れ
コンパニオンバードに関わらず、鳥が強いストレスにさらされるとその異常は羽根に現れます。
ストレスには様々なことが考えられますが、人間の飼育下で特有のものは、厳しい訓練や、不適切な環境で飼われる強い欲求不満・不安・孤独感などです。
こうしたストレスは鳥自身が自らを傷をつける『自己の羽根破壊行為』として表出します。
ですが、羽根の異常は必ずしもストレスによるものではない為、異常を認めたらすぐに専門の医師の診断を受けましょう。
猛禽類とオウム目の差
『自己の羽根破壊行為』は、コンパニオンバードやラブバードに多く見られる問題行動のようです。
と言うのは、私は鷹を所有しフリーフライトまでの訓練を行いましたが、換羽期を2回迎えた現在でも、特に問題なく過ごしてきたからです。
その違いは、鷹は捕食者であり、コンパニオンバードは被捕食者である事が関係しているように思います。
鷹は、獲物を捕まえる為の鋭い爪、足趾の強い握力、鉤型に彎曲した嘴を持つ、生態系の頂点に君臨している捕食者で他者に狙われる事がほとんどない生物です。
一方の被捕食者であるオウムやインコは、両目の位置がその特徴を表しています。これは、野生下では敵に襲われるのは背部からの為、危険を一早く察知できるように目が顔の横についているのです。
鷹は個体の性格を考慮しても、換羽期の厳しい訓練で十分な栄養が行かない場合に羽根に異常が現れますが、インコやオウム類は換羽期に関わらず、日常での接し方でもストレスを感じ、羽根に悪影響を与える問題行動を容易に誘発してしまいます。
代表的な6つの問題行動
コンパニオンバードの一般的な問題行動でよくあるのは以下の6つかと思います。
この内1~4を習慣化させると、矯正(トレーニング)するにもとても厄介になりますので、問題行動を見つけたらすぐに手を打たなければなりません。
- 毛引き(羽根の自己破壊行為):ストレスを発症した時に見られる自己の羽根破壊行為でこの6つのうち最も深刻。羽根に異常が見られたらまずは獣医師に受診し、病的なものかの判断を。
- 噛み癖:鳥にとってかじるという行為は自然なことですが、それが人に向けられた時、また、自己の羽根破壊行為へ移行した時には問題として対処が必要になります。
- 悪い言葉や呼び鳴き:飼い主にかまってほしいがために大声で呼んだり、悪い言葉を連呼したりします。
- 極端な雄叫び:絶叫です。
- おしゃべりをしない:言葉を教えているのにしゃべらない状態です。
- 恐怖症:人が来るとパニックになりケージの中を飛び回ります。
こうした行動は初めは軽い症状で現れますが、適切な対応がなされず放置をすると、習慣化しエスカレートしていきます。そのため異常の早期発見、早期対応がその後の症状を左右します。
羽根の自己破壊行為とは
羽根破壊行為は過剰羽繕いや羽齧り、毛引き、羽咬(はこう)症の総称で、習慣化、悪化すると完治させる事は困難になり、羽根の換羽を迎えても再生しないケースもあると言われています。
毛引き症・羽咬(はこう)症とは
毛引き症、羽咬症とは自分の毛を引き抜いたり咬みちぎる羽根破壊行為の事で、症状が進行している場合には地肌が丸見えだったり、羽根がボロボロにちぎられた状態になります。
こうした状態は必ずしも時間をかけて緩やかに症状を悪化させるものではなく、短時間で深刻な病態に陥る事もあります。
一夜にして全身の毛が抜けてしまこともあるそうです。
自己破壊行為の前兆は見逃さない
毛引き・羽咬症が最も厄介と言われるのは、そもそも齧るという本能に組み込まれた行為がエスカレートした状態であることや、破壊行為に快感を覚える場合もあると言われているからです。
過剰羽繕いや羽齧りは要注意
本来羽繕いは、美しい羽根を保ったり、仲間同士で行う愛情表現です。
その為鳥にとっては必要不可欠な行動であり、気分を落ち着かせる効果もあると言われている程重要な行為でもあります。
また、齧るという行為も鳥の本能に組み込まれた自然な行動です。
ですが、人間の飼育下で様々なストレスにさらされた個体は、本来の行為を過剰に逸脱した過剰羽繕い、羽齧りを行います。
羽根の異常は必ず専門医の診察を
羽根破壊行動の原因にはストレスという言葉がすぐに思いつくかも知れませんが、ストレス以外にも病気による場合があります。
その為、過剰羽繕いや羽齧りといった状態が見られたら経過を見るまでもなく、癖になる前に、まずは獣医に診てもらい、それが病気なのかストレスなのかという選定をしてもらう必要があります。
その上で、医師の助言に基づき病気ならば治療を、ストレスであるなら行動修正トレーニングなど専門家に速やかに相談するのが良いでしょう。
お迎えしたハルクインコンゴウインコ
ここで、実際に私が所有しているコンゴウインコを例に羽根破壊行為と毛引きについてご紹介いたします。
受診前のコンゴウインコの状態
全身を観察すると私が見ただけでも、ストレスハンガー、羽根の断裂、羽根の変色、胸部に毛抜き跡のようなものがあることがわかりました。
- お迎え日:2024年4月
- 名 前:サファイア
- 性 別:男子(DNA鑑定)
- 体 重:1.0Kg~1.1Kg
- 羽根の状態:ストレスハンガーマーク、羽根の断裂、羽根の変色、羽齧り(?)
- 毛 抜き:胸部に円形脱毛症(?)
- 問題の癖:後ろ足で尾羽をしごく(羽根破壊)・過剰羽繕い
- 性 格:警戒心が強く、身体を触ろうとすると噛みつく。
- 知 性:良い。3週間ほどで手乗り訓練をマスター
- 呼び鳴き・絶叫:お迎え後数日は日中4~5回、1回1絶叫的な感じで見られたが、その後はほぼ消失。ところが、8月頃のケージ替えや、調教が進むにつれ呼び鳴きがみらるように(多いと1日1~2回、30秒ほどで消失、ない日もある)
羽はお迎え時の状態から飼育環境が劣悪であったことは容易に想像がつきましたが、専門医に診てもらい指導を受けました。
お迎え検診は必ず受ける
動物をお迎えする場合、お迎え前にその個体の健康診断を行い異常がないか調べます。
性別判定や感染症の鑑定は購入店により予めしてくれるところとそうでないところがあります。
こうしたお迎え検診を済ませてある個体は、当然ですが個体の価格も跳ね上がります。
一方検診や性別判定を済ませていないお店も少なくはないと思いますし、個体価格を考えるとつい検診は後でも良いかと思うかもしれません。
ですが、外見ではわからない病気や、後述するように栄養失調による骨の異常などが潜んでいる事もありますので、未検査の子をお迎えする場合には自分で動物病院に連絡し、お迎えによる検診であることを伝え、必ず受診をするようにしましょう。
動物病院は予約制のところも多いので、まずは早い時期に予約だけでも入れると良いかと思います。
検診の結果と今後の方向
諸事情により受診が遅くなり、お迎えから40日後の診察となりました。
専門医から頂いたのは以下の所見でした。
- 竜骨突起(胸骨)の変形:雛時代の栄養失調による骨の発育不全
- 過剰羽繕い:身体から本来見える事のない産毛(綿毛)が散在。
- 羽 齧 り:風切り羽根、尾羽の破損
- 毛 引 き:なし
- 栄養 状態:現在問題なし
- 感 染 症:なし
- 診察の様子:噛みつき行為なし 絶叫や呼び鳴きもなし
- 性 格:医師から見るとおっとりしたとてもいい子。
いくつかの感染症も検査していただきましたが、その辺りは問題ないとの事でした。
ただ羽根の損傷はストレス性の羽根破壊行動であると断定できましたので、今後は私の接し方、環境のあり方が大きな課題になります。
胸骨変形:栄養状態の補正
胸骨の変形は軽度でしたが、一旦形成された骨が治る事はないので今後の生活の中で骨の形成に向いたペレットを準備することにしました。
骨を強くするためには、タンパク質の豊富なペレットが良いそうです。
過剰羽繕い・羽齧り:ストレスの緩和を
実は、私自身お迎え検診をするまで、過剰羽繕いの具体的な所見がどのようなものなのか知りませんでした。
胸部から腹部にかけて見られる灰色の産毛のような羽根(綿毛)は、本来は表面にはなく、自分でいじってしまう為に現れるそうです。
行動の観察:羽繕いのタイミング
過剰羽繕い・羽齧りでは、嘴や肢を身体に持って行くタイミングがどのような場合かを観察します。
特にケージトップにいる時は、普段から注意が必要です。
ケージトップでは縄張り意識が強くなりますので、普段から攻撃性が強くなりますし、おもちゃがないと羽繕いにふけっている事も見られます。
まさにうちの子がそうでした。
適切なおもちゃを絶え間なく与える事で、嘴が体に行く回数を減らす事ができます。
環境の見直し:ケージの使用を制限
本来ケージで管理をした方がしつけや調教を入れやすいのですが、ケージでの生活にストレスがある場合にはケージは、睡眠と餌の時間のみにします。
あるいは放鳥時間をできる限り長くするか、少なくとも1日2回、時間を決めて規則正しい生活になるようにします。
この場合、ケージトップで過ごさせるのではなく、部屋の中を移動できる止まり木を十分に用意し、遊べるおもちゃの配置も考慮します。
一方で、ケージトップで遊ばせる事もストレス解消に良い事もわかっていますので、飼育は何とも複雑ですね。
飼育している個体の様子を日常的に十分観察して、今日の状態によって過ごさせ方を変えてあげられるように、飼育者もまた訓練が必要なようです。
兎にも角にも安全かつ、退屈な日常にならない環境を整えます。
※ケージ管理は可能なら2つ用意しますが、詳細についてはコンパニオンバードの調教~3手乗り訓練と必要性~でご紹介しています。
ストレスハンガー:換羽期の過ごし方
鳥は換羽期に入るとイライラする事があると言われ、この時期に栄養不足や厳しい訓練によってストレスを受けると、ストレスハンガーというマークが出ます。
これは羽根が脆弱になった状態で、羽根を空中にかざすとマーク部で向こう側が透けて見えます。
このような羽根は弱く折れやすい為フライトに悪影響が出、飛力が低下して落下の恐れさえあります。
画像はお迎え4日目の画像ですが、初列風切羽根の数枚の羽根が途中で欠損しています。お迎え前には狭いケージで過ごしていた事がうかがえます。
私の所有している鷹にはこのような羽根は全くありませんでしたが、サファイアにはあらゆる箇所でこのマークを認めました。
換羽に集中させる為には厳しい訓練(特に食事制限)を避け、栄養補助サプリを加え、タンパク質の豊富なペレットをしっかり食べてもらうようにします。
コンゴウインコは尾羽根を入れた全長が1mになる為、高さだけでなく広さ、奥行きも十分な大きさがなければなりません。ケージの広さが適切でないと柵に羽根が当たり破損しますので、適切な広さのケージを用意しましょう。
私は当初猫用のケージを用意していましたが、尾羽根が折れてしまったのをきっかけに大きなケージを用意しました。
改めて記事を投稿しますが、大きなケージを用意した事でステップアップが進み、調教が楽になりました。
体調管理:体重・食べ物・フンを記録
毎日の体重測定、食べた物の種類・量、フンの性状を記録するようにします。
その他問題行動が出る時間帯や状況なども記録しておくと良いでしょう。
接し方の改善:一緒に遊ぶことも一人遊びもできる
コンパニオンバードの理想の飼育は、飼い主の都合で一緒に同じおやつを食べたり、一緒に遊ぶ事が出来つつ、それ以外はペレットを一人で食べ、ひとり遊びができると言う、何とも都合の良い鳥に、飼い主が仕立て上げる事です。
このような鳥を社会性・自律性・協調性を持った完璧な鳥と称しますが、こうした性質を培うのは、飼い主による適切なしつけと調教になります。
なので、ストレス症状がある場合には厳しい制限や過剰なかかわり方はせず、ゆったりとした心構えで鳥が過ごせることを考えます。
こちらの記事『コンパニオンバードのお迎え~2お迎えの心構え~』でもご参照いただければ幸いです。
毛抜き:今回は診断されなかった
サファイアの毛引き?に気づいたのは、5月に入り全身の水浴びをさせた23日ごろでした。
円形に綺麗に地肌が見えたのを確認したときはショックでしたが、とにかく訓練での大好物のひまわりを与えすぎないようにし、ペレットを確実に食べさせるようにしました。
※ひまわりの種は脂質が多く、与えすぎると気性が荒くなると言われていますので、問題行動がエスカレートしやすくなるそうです。
所が6月4日に水浴びをさせたときには胸部の羽根は生えており、診察の際にも医師から脱毛痕はないと言われました。
※後日ユーチューブで他のコンゴウインコちゃんの雛を見た時に、胸に同じような状態がありましたので、雛に見られる特徴だったのかもしれません。
毛引ききを認める場合の羽根は、毛根に出血跡があるといいますので、換羽期だからと看過せず十分な観察を行いましょう。
羽根のクリッピングとは
大型どりの場合、自由に飛ぶ事を許すと反って危険のリスクが高くなるため、羽根をある個所で一定の長さで切るクリッピングと言う処置を施します。
サファイアの羽根は羽先が不揃いだったり、すっぽり同じ個所でカットされたような形跡がありました。
当初不適切なクリッピングかと思いましたが、医師によれば、雛時期に自ら傷めたもの、またハンガーマークでの欠損であろうとの事で、クリッピングは否定されました。
羽根自体はきちんと管理を行えば通常生え変わるので、換羽に集中させることが最優先です。
その為にも羽根の異常を認めたら、まずは専門医に診てもらい、病気を否定されてから、適切な初期対応ができるように心がけましょう。
自己判断では取返しのつかない事も…。
可能なら、主治医は選ぶべし
動物病院は緊急時にすぐ見てもらえる近くの病院にこしたことはありません。
ですが命を救ってくれる病院とそうでない病院は確かにあるので、ペット仲間から情報を集めて、病院を選ぶ事も必要なように思います。
私は実は、鷹のフライトをしていた時に、話かけてくださった初めての女性から、とても素晴らしい医師がいるとご紹介され、今回の検診に行きました。
何でも状態の悪いセキセイインコをとある病院で受診した際、医師からはもう助からないとあっさり言われたそうです。
状態を考えるとそれを受け止める努力をするのですが、飼い主としてやり場のない気持ちで待合室でひとり泣いていたところ、受付の方がそっとメモを下さり、そこにはある病院の名が記されていたそうです。
藁にもすがる気持ちで受診をすると、医師は丁寧に診察をして、治療を行い少しづつ容体持ち直したそうです。
※彼女に出会って2か月が過ぎますが、セキセイインコは今なお通院中で、容体は安定しているとの事です。
そのような経緯を聞いたので、状態のあまりよくないコンゴウインコと暮らす私としては、評判の良い医師にかかりたいと思っていたこともあり、さほどの期待は持たないようにしつつそこへの受診を致しました。
そして実際に診察を終えての実感は、それがまぎれもない事実であったと言う感動でした。
まず、驚いたのは検診中ずっと私を診察室に付き添わせてくださったことでした。
※動物は苦痛を伴うような環境下に置かれた場合、周囲の者を敵認定する為、飼い主は診察室に入れない事もあります。
またサファイアは1歳になる個体で警戒心が強く、手乗り訓練は出来ていても、体に触れようとすると噛みつく為、私でさえ怖くて体を撫でてあげる事がそれまでずっとできませんでした。
その旨を伝えたうえで、素手で触れようとする先生だったので噛みつかれて怪我をするのではないかと心配していたのですが、サファイアは逃げ惑う事はあっても、実際に先生に噛みついたり、診察室で絶叫をすることもありませんでした。
素手で触れる医師を目の当たりにし、私も触れてみたいと申しましたら、医師は笑いながら付き合って下さり、初めてサファイアの身体を全身なでてあげる事ができました。
私は初めて触れる事が出来た喜びから我を忘れて、思わず先生に動画をとってほしいとお願いしていました。すると、先生は笑いながらやさしく撮影してくださったのです。今思うと本当に迷惑な話ですよね。
ですが、一生忘れられない思い出の一つです。
診察風景を見せていただいたことで、タオルでの保定や噛みつき防止の技術などを少しなりとも学ぶ事も出来ました。
もしあの診察で中に付き添わせていただけなければ、私は今でもサファイアの身体に触れる事は出来なかったと思います。
長居を恐縮に思いながら診察室を出ると、ちょうどひとりの女性がセキセイインコを連れて待合室に入られたところでした。
先生から「今来た人が紹介してくれた人だと思いますよ」と言われ、見てみるとそこには確かに先生を紹介してくださった女性がおられたのです。
私は彼女と連絡先を交換していませんでしたし、お互い受診の日も知りませんでしたが、ここで驚いたのは、お互い当初の受診予定が変更になって偶然この日時になったのだそうです。
この日初めて連絡先を交換し、二人で鳥がつないでくれたご縁と今なお笑っています。
おわりに
いかがでしたでしょうか?サファイアの状況については今後もシリーズ化して状況を記事に致しますので、どうかよろしくお願いします。
鷹にしろコンゴウインコにしろ彼らが私に多くの人との縁をつないでくれた事は間違いなく、人生で初めて経験する幸せをかみしめる毎日です。
コメント